人の生理的感覚を追求する。
痩せる。筋肉がつく。肌質を整える。モノが溢れる現代において、美容・健康グッズを使えば、効果が出るのは当たり前かもしれない。その上で、いま人々が求めているもの。それは「驚き」だと私は思う。想像を裏切るような、発見のある感覚…。ヒットする商品には、言葉では説明しがたい驚きがある。
あれは、自社でオリジナル商品を開発した時のことだ。試作品を持ち寄る会議で、私が提案したエクササイズ商品『パーフェクトエクサ』は当初、渋い反応を受けた。なぜなら、約2万円と値の張るクッション型のトランポリンだったからだ。ただ、私は確信していた。その商品には、人々を惹きつけるだけの驚きがあると。
その魅力に、最初に惹きつけられたのは、まぎれもなく私だった。試作会議の2年前。台湾の展示会で偶然出会ったのは、車いすの座面に使用されているという衝撃吸収材。その感触が気になり、なにげなく押してみたところ、少しの圧にも関わらずふわっと押し返してくる。その感触が、想像していたよりも心地が良くて驚いた。「この感覚は、売れる」と、直感がうずいた。
帰国後、その素材を取り寄せ、チームの仲間と一緒に座ってみたり、寝てみたり、叩いてみたり、様々な方法でその感触を味わった。「エクササイズ用のトランポリンに使ってみたらどうだろう」。スポーツトレーナーの専門家に相談してみたところ、ジャンプによる脂肪燃焼と体幹づくりの効果は抜群らしい。生活に馴染む、スリムを目指せるトランポリン。勝ち筋は見えてきた。その後は、試行錯誤の繰り返しだった。素材の厚さを0.5cm単位で調節したり、何層にも重ねてみたり、異なる素材と組み合わせてみたり…。どんな商品をつくる時でも、「お客様にもっと喜んでもらうためにはどうしたらいいか」と考え続けると、ある時ふと、自分の求めていたものに気づくことがある。まるで、商品の方から答えを教えてくれるような…。私はその瞬間が訪れるのを、じっと待つ。この仕事は、人間の生理的感覚を追求することに近いのかもしれない。そんなことを考えていた。
人生を面白くするのは、
いつも自分だ。
結果的に『パーフェクトエクサ』は、年間2.8億円の売上を叩き出す、ヒット商品となった。この商品が初めてテレビ通販で紹介された日のことは、今でも覚えている。問い合わせの数が、何百、何千と伸びていく様子をリアルタイムで見るのは、何度経験しても高揚感がある。自分が仕掛けた驚きによって、人々が動いていく。その成果を、目の前のテレビで知ることができるのが、この仕事の醍醐味だと思う。
今では私にとって、仕事は趣味みたいなものだ。というより、仕事と人生は互いに作用するものだと思う。限られた情報にしか触れない毎日を過ごしていたら、きっとつくる商品の幅は狭まってしまうし、逆にインプットの多い刺激的な毎日を過ごしていたら、驚きのある商品を生み出せる。そして、そんな商品をつくり続けた先には、もっと面白い人生が待っているだろう。物事の裏にあるストーリーが見えるようになったり、その物語を追いかけていくうちに、新しい縁に恵まれたり。仕事をすればするほど、私の日常が、驚きで彩られていく。だから、二十年続けても飽きがこないのだと思う。
このさき自分は、どんな商品や仲間と出会うことになるだろう。モノづくりを続ける限り、きっと失敗も苦労も尽きない。でも、それもひっくるめて、楽しくやればいい。仕事だからやるんじゃない、やりたいからやる。それが、一度きりの人生を面白くするコツだと思うから。