母からの授かりもの。
「相手の立場に立って物事を考えて」。幼い頃、わがままな行動をとるたびに、自分がされて嫌なことは他人にはするな、と母から言われて育った。あの頃は「また言ってるよ…」くらいにしか捉えておらず、その意味をじっくり考えて反省することはなかった気がする。でも、思わぬ出来事をきっかけに、この考え方が自分の中に染み付いてゆくことになった。
今から20年ほど前。社会人になりたての私の日々の息抜きは『ネット懸賞』だった。情報収集の手段としてWebが使われるようになり、“OL”向けの情報サイトがたくさん立ち上がり始めた当時。そういったサイトにはプレゼント付きのアンケートがたくさん出ていた。ひまつぶしで応募するうちに、ある傾向に気づくことになる。回答を丁寧に書いた時ほど、不思議とよく当選したのだ。そこで私はサイトを隅々までチェックし、そのサイトを運営している人が何を知りたいかを考え、ユーザー目線で思うことを具体的に書いてみた。すると、高倍率の懸賞でもかなりの確率で当たるではないか。「相手の立場に立って物事を考えて」。母の言葉が、私の中でストンと腑に落ちた出来事だった。私は、この一連の流れを『戦略的思いやり』と名付けて呼んでいる。相手が何を考えているかを推測し、それに応じた行動をとると、相手に喜ばれつつ自分の望みを叶えることができる。それが戦略的思いやりの効果であり、誰もおおっぴらには言わないけれど、この世界の法則なんじゃないかと思った。
そんな私のスタンスを評価してくれたのが、その後に勤めた出版社だ。私はファッション誌の編集者として働いていたが、2年目が終わる頃には早くも物足りなさを感じていた。読者が喜ぶことを考えて誌面をつくっても、私の担当ページが読者の暮らしにどんな変化を与えているのか、実感が得られなかったのだ。思いやりの心で尽くしても、その思いやりが誰かのためになっているのか分からない。「もっとお客様の反応が見える仕事がしたい」。そんな思いから、新天地として選んだのがDINOS CORPORATIONだった。