ふたりで壁を乗り越えて。
「イタハナくん、これからよろしく」。新規事業部のエリアには、マネージャーと僕のデスクがふたつ並んだ。その隣には、ディノス事業の家具MDたちがいる。ある意味、通販とレンタルは競合のような立ち位置にもなるし、家具のことを何も知らない新参者の僕は、スタートから肩身の狭い思いだった。
当時、欧米ではモノを所有する時の選択肢としてレンタルしてから購入するという考え方が普及していた。しかし日本ではまだ、レンタルといえば一時利用の目的のみで、返却することが前提だ。当社でのサービスをつくるというより、購入検討型のレンタル市場そのものをつくる試みだったと思う。
市場調査からサービスづくりまで、毎日マネージャーや関係者と打ち合わせし、時には朝から晩まで議論したこともあった。サービスの詳細やネーミング、システム構築、運用方法…など決めることは山ほどあったし、社内の承認を得るのも難しかった。それでも、世の中に新しいことを仕掛けているという実感が、僕の気持ちを高ぶらせていたと思う。それに思わぬところで、過去の自分に助けられた。マーケティングの部署で、データを活用して物事を語るスキルは身につけてきた。しっかりとデータで根拠を示せば、若手だろうとキャリアに関係なく、事業責任者として話ができる。数字の前ではみな平等なのだと知った。
一方で、数字だけでは乗り切れない場面があることも痛感した。会社としても新しい試みゆえに、ふたりだけでは力不足で、社内外のたくさんの人に協力を仰ぐ必要があった。しかし、数字を示すだけでは、なかなか思うようには進まない場面もあった。そういう時マネージャーは、決まって“想い”を熱く語るような人だったことを覚えている。この事業を成功させたその先にある未来を、しっかりと言葉で伝えていく。少しずつ周囲の人が自然と巻き込まれていくのが、隣にいてよく分かった。彼の言葉により、人々の疑問や心配が信頼へと変わっていったのだろう。いつか自分も、想いで誰かの心を動せるような人になりたい、と思うようになった。
仲間と自分を、信じて進め。
2017年10月1日。僕らの家具レンタルサービス『flect(フレクト)』がローンチした。僕は誰よりも早く出社し、デスクに座ってお客様からの反応を待つ。しかし数日たっても、ご注文も入らなければ、問い合わせもない。時折、社長や他部署の人が僕らのデスクへと様子を見にきては「反響どう?」「何か売れた?」などと聞いてくる。もうしばらく誰にも会いたくない…と思っていた矢先。“レンタル契約、1件”。思わず、いつもなら出ないような大きな声が出た。いまだに忘れられない、家具レンタルサービス誕生の日だ。
あれから5年。たった2席だったデスクは今や7席になり、小さなチームながら、日々進化を続けている。これまで当社が上手く獲得できていなかった、20~30代の利用者も順調に増えてきた。もちろん順調なことだけではなく、途中で売上が低迷し、もう解散なのではと焦った時期もあった。新しいサービスゆえに、トラブルも多く、都度手探りで対応していく難しさもある。ただ、そんな時こそ、チームで楽しく乗り越えていきたいと思っている。あの時のマネージャーのように…とまでは言えないけれど、今度は自分が周囲を巻き込んでいく番だ。落ち込んだり、反省するのは後でもできる。大切なのは、今目の前にある壁をどうやって乗り越えていくか。そして、心の火を絶やすことなく、明るく前向きに進んでいけるかだ。“想い”が人をつなぎ、そこからいいサービスが生まれる、そう思うのだ。